不動産鑑定士が実務において調べた不動産鑑定理論や建築基準法等について綴ります。

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直近合意時点はいつ?

継続賃料の査定においては、直近合意時点と価格時点までの間における公租公課や賃料相場の変動など(事情変更に係る要因)が重視されます。
事情変更に係る要因は、直近合意時点と価格時点の期間が開くほど、影響が大きくなるため、直近合意時点をいつにするかによって、継続賃料は大きく変動します。
したがって、直近合意時点が争点になることも多いため、適切に判定する必要があります。

直近合意時点とは

不動産鑑定評価基準では、以下のとおりの意義となっています。

不動産鑑定評価基準

契約当事者間で現行賃料を合意しそれを適用した時点

「合意しそれを適用した時点」という表現は難しく、裁判によっても多くの判例が生まれています。
「不動産鑑定評価基準に関する実務指針」において、判例を解釈した複数の例が記載されておりますので、紹介します。

間違い

賃料自動改定特約があり自動的に賃料改定がされている場合に、当該自動的に賃料が改定された時点を直近合意時点としている場合

正 解

賃料自動改定特約の設定を行った契約が適用された時点を直近合意時点とすべきである。

つまり、自動改定特約により賃料が変動している場合においては、自動改定毎に「合意」が生じているわけではないので、「合意」が生じている賃料自動改定特約の設定時が直近合意時点になるということです。

間違い

賃料改定等の現実の合意がないまま契約を更新している場合に、当該契約を更新した時点を直近合意時点としている場合

正 解

本来は、現実の合意があった最初の契約締結した賃料が適用された時点を直近合意時点とすべきである。

ほとんどの賃貸借契約書には、自動更新が設定されています。
自動更新時には「合意」がないため、自動更新は直近合意時点にはなりません。
例えば、
賃貸借の契約期間:2018年1月1日から2019年12月31日(2年毎の自動更新)
現在:2021年7月1日
だったとした場合、直近合意時点は2018年1月1日が正解であり、2020年1月1日は誤りということです。

間違い

経済事情の変動等を考慮して賃貸借当事者が賃料改定しないことを現実に合意し、賃料が横ばいの場合に、当該横ばいの賃料を最初に合意した時点に遡って直近合意時点としている場合

正 解

賃料を改定しないことを合意した約定が適用された時点とすべきである

つまり、「賃料を改定しないことの合意」は有効であるということです。
例えば、前回賃料改定時が2000年1月1日であり、その後に賃料の増減が一切なかったとしても、2022年1月1日に「賃料を改定しないことを合意」した場合、以降の直近合意時点は2022年1月1日となります。
なお、賃貸人の変更などにより契約書を更新する場合がありますが、それは「賃料を改定しないことの合意」とみなされません。
賃料の増減額が生じた時点よりも証拠が残りづらく、当事者の解釈も分かれやすい合意になりますので、しっかりと「賃料額について実質的な交渉を行った証拠」を残す必要があります。

もう一例、ご紹介します。

間違い

契約締結により賃料を現実に合意した時点と使用収益開始時点が異なる場合において、契約締結時点を直近合意時点としている場合

正 解

使用収益開始時点、すなわち、賃料が適用された時点を直近合意時点とすることが妥当である。

この例は、契約時点から賃貸開始までの期間が相当期間空いた場合において、その期間中に賃料が不相当になったとして賃料減額を求めた裁判の判例(東京地裁平成29年7月)によっています。
賃貸開始前に賃貸人側において改装工事を行う場合、契約日と賃貸開始日まで数ヶ月の期間が開くことがあります。
その際に、契約日を直近合意時点にすると、誤りになりますのでご注意ください。
なお、フリーレントがある場合や、賃料の起算日と使用収益開始日にズレがある場合、「賃料が適用された時点」というのが文言的に引っかかりますが、判例を読む限りは使用収益の開始時点がキーワードですので、特に気にする必要はありません。

まとめ

以上にあげた例のとおり、判例が充実したことにより、直近合意時点の判定には一定の基準が生まれました。
このあたりの情報は、比較的新しく、継続賃料に明るくない不動産鑑定士や弁護士は知らない情報です。
この基準に沿っていない直近合意時点を設定した場合、大きくひっくり返る危険がありますので、十分に注意してください。

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