不動産鑑定士が実務において調べた不動産鑑定理論や建築基準法等について綴ります。

不動産鑑定士のブログ

継続賃料の査定方法と流れ

継続賃料の査定方法について解説します。
継続賃料は調停や裁判等において利用されることが多く、既に問題が発生している事案であるため、鑑定評価書の作成にあたっては細心の注意を払う必要があります。
また、不動産鑑定評価の類型のなかでは最も難易度が高いものになりますので、慣れてない不動産鑑定士ですと、やりたくない、引き受けたくない案件となります。
したがって、鑑定評価の報酬額も高くなります。

継続賃料の鑑定評価の流れ

継続賃料を求めるには手法は4つあります。
・差額配分法
・利回り法
・スライド法
・賃貸事例比較法(継続)

これら4つの手法を勘案して鑑定評価額となる継続賃料を査定します。
以下、各手法の流れをザっと説明しますが、各手法の詳しい説明は別記事を用意していますので、興味のある手法をご確認ください。

差額配分法

この手法は、価格時点の新規賃料を査定し、現行賃料との差額を配分して継続賃料を査定する手法です。

利回り法

この手法は、価格時点の基礎価格に、継続賃料利回りを乗じて継続賃料を査定する手法です。

スライド法

この手法は、現行賃料にスライド指数(変動率)を乗じて継続賃料を査定する手法です。

賃貸事例比較法(継続)

この手法は、類似する継続賃料の事例をもとに、継続賃料を査定する手法です。

試算賃料の調整

各手法により査定した試算賃料を調整して最終的な継続賃料を決定します。

不動産鑑定評価基準に以下の記述があるため、全ての試算価格を均等に配分して決定している鑑定士が多数存在します。

不動産鑑定評価基準

差額配分法による賃料、利回り法による賃料、スライド法による賃料及び比準賃料を関連づけて決定するものとする

しかし、バブル期における低すぎる利回りにより精度が悪い利回り法による試算賃料や、契約内容が掴めておらず、適切に比較出来ていない賃貸事例比較法に基づく試算賃料等、各試算賃料には案件毎に優劣が存在することが多く、安易に均等に配分することが適正とは言えません。

こちらにつきましては、不動産鑑定評価基準に関する実務指針(平成29年5月一部改正)のP254に以下の記載があります。

不動産鑑定評価基準に関する実務指針

各試算賃料を機械的に調整することや、安易なウエイトづけを行ってはならない。

したがって、各試算賃料の説得力の判断を行い、最終的な鑑定評価額(継続賃料)の決定を行います。

継続賃料査定にあたり必要な資料

依頼者側において必要となる資料を列挙します。
継続賃料の場合は、過去からの経緯を勘案する必要がありますので、資料が残っているほど精緻な査定が行うことができ、鑑定評価書の説得力が増します。

賃貸借契約書

当初の賃貸借契約書、その後の改定毎の賃貸借契約書、賃料改定の覚書、条件変更の覚書など、契約に関わる契約書の全てです。
長期に渡る場合には契約書が残されていない場合や、口頭での契約もありますが、書面が無い場合においてもメモ書きなどでも結構ですので、わかる範囲の情報をご用意してもらいます。

固定資産税、都市計画税の公課証明書

積算賃料の査定及び利回り法による試算賃料の査定、公租公課の変動の把握に使用資料です。
・地代の改定については、土地公課証明書(価格時点と直近合意時点の2時点分)
・家賃の改定については、土地公課証明書と家屋公課証明書(価格時点と直近合意時点の2時点分)
が必要となります。
公課証明書に記載されている情報のうち、特に大事なのは「税相当額」なので、公課証明書が用意できなくても、固都税の実額が記載されている何らかの資料を用意してください。
ただし、市町村によっては5年を超える過去の公課証明書を取得できない場合などもありますのでご注意ください。
直近合意時点が、どの時点になるかは判断が必要となりますので、不動産鑑定士に判断を仰いでください。

相手方の不動産鑑定評価書

すでに調停や裁判の相手方がおり、相手方の不動産鑑定評価書に対する対抗のための不動産鑑定評価書を依頼する場合には、ご用意頂きたい資料です。
不動産鑑定評価書の作成にあたり、相手方の不動産鑑定評価書の誤りや不明確な事項等の洗い出しもある程度行えるほか、契約の経緯などの情報を依頼者側で用意する手間が省けたりとメリットが大きいです。

調停や裁判の関係資料

これはケースバイケースです。
必要とする不動産鑑定士もいれば、必要としない不動産鑑定士もいます。
継続賃料の鑑定評価書は争いのための武器であることから、どのような戦場に投じられるのかを把握しないと依頼者側の思惑から外れる可能性があるため、私は関係ある全ての資料を取得する派の不動産鑑定士です。

物件確定用の資料

・登記簿謄本、公図、地積測量図、建物図面などの法務局関連資料
不動産鑑定士側でもインターネットでも取得できるため、依頼者側においてご用意頂ければありがたい資料です。

・住宅地図やGoogleMapなどの位置図
物件の細やかな確定は不動産鑑定士において行いますが、大前提のどの物件かという情報を提供して頂くためにご用意頂きたい資料です。

継続賃料鑑定評価の依頼方法

継続賃料の鑑定評価が必要となるほとんどのケースは、賃貸人・賃借人の当事者間において賃料改定の同意が得れない場合です。

以下、賃貸人が賃借人に賃料の上昇改定を行うケースを見てみましょう。

賃貸人:近年、賃料相場が上昇しており、固定資産税も高くなっています。前回の賃料改定から随分年数も経っていますので、賃料を月額100万円から110万円にあげさせて頂けませんか?
賃借人:増額に同意したいのは山々なのですが、弊社は儲かっておりませんでな・・・。何とか現状維持でお願いいたします(^^;)
賃貸人:でしたらご退去頂く訳にはいきませんか?
賃借人:いやいや、、退去する余裕もございませんでな・・・。何とか現状維持でお願いいたします(^^;)
賃貸人:賃借人が賃料増額をのまないので、ご協力いただけませんか弁護士A先生!
A先生:とりあえず、賃料増額請求書を送り付けておきましょう。あと、増額後賃料を証明するため、鑑定評価書を依頼しましょう。

賃料増額請求書の内容

現行賃料:月額100万円
増額後賃料:月額110万円
増額時期:2020年10月分より

A先生:不動産鑑定士のH先生、この案件の継続賃料の鑑定評価書をお願いできますか?
H先生:この地域において、この条件の賃料であれば、問題ないですね。お引き受けさせていただきます。

不動産鑑定評価の依頼までの流れは、大体はこんな感じです。
なお、知り合いに不動産鑑定士がいましたら賃貸人側から直接依頼頂いても結構ですし、上記の例のように弁護士にお任せしてもよろしいかと思います。
また、依頼のタイミングもまちまちでして、鑑定評価書が完成してから賃料増額請求をする場合もあれば、先に賃料増額請求をしておいてから鑑定評価書を依頼する場合もあります。

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