不動産鑑定士が実務において調べた不動産鑑定理論や建築基準法等について綴ります。

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増築に伴う既存部分の新耐震基準・旧耐震基準の見分け方

近年、不動産融資の厳格化により、旧耐震基準の建物には融資しない金融機関が増えています。
旧耐震基準の建物は昭和56年6月1日以前に建築確認が行われた建物です。
では、旧耐震基準の建物を増築した場合、新耐震基準の建物扱いになるのかを調べました。

※建築士ではないので、誤った情報が混在している可能性がありますのでご注意ください。

新耐震基準・旧耐震基準の見分け方

まず、結論から。

①増築面積が既存延床面積の「1/20以下かつ50㎡以下の増築の場合」の既存部分は旧耐震基準の可能性が高い。

②「①以上の増築の場合」の既存部分は新耐震基準の可能性が高い。

以上です。

簡単に解説します。
①の場合における既存部分については、新耐震基準に適合させる必要がそもそも無いので、特に手を加えていないのであれば旧耐震基準のままです。

②の場合における既存部分については、新耐震基準に適合している必要があります。
したがって、どのようなパターンの増築であろうと新耐震基準に適合しているように思えます。
しかし、エキスパンションジョイントを使用した増築などにおいては、構造計算ではなく耐震診断によって新耐震基準への適合を証明している場合があります。
この場合において、しっかりとした耐震診断に基づいていれば問題なく新耐震基準に適合していると言えますが、耐震診断をせずに、建築士のコメントにより新耐震基準への適合を証明しているケースがあるそうです。
ですので、可能性が高いという表現にしています。

※上記は記事を記載した時点の建築基準法の話ですので、改正前の建築基準法では見解が異なりますのでご注意ください。

建築確認申請書による見分け方

どのような方法により増築をしたのかは建築確認申請書の第六面に記載されています。
第六面の「7.建築基準法施行令第137条の2各号に定める範囲の区分」に記載があります。

ここに、

第一号イ
第一号ロ
第二号イ
第二号ロ
第三号イ

といった記載があります。
(「1項二号イ」といった感じで、1項まで書かれている場合もあります。)
これは「建築基準法施行令第137条の2号」の何れに該当するかが書かれています。

参考

第百三十七条の二 法第三条第二項の規定により法第二十条の規定の適用を受けない建築物(法第八十六条の七第二項の規定により法第二十条の規定の適用を受けない部分を除く。第百三十七条の十二第一項において同じ。)について法第八十六条の七第一項の規定により政令で定める範囲は、増築及び改築については、次の各号に掲げる範囲とし、同項の政令で定める基準は、それぞれ当該各号に定める基準とする。
一 増築又は改築の全て(次号及び第三号に掲げる範囲を除く。) 増築又は改築後の建築物の構造方法が次のいずれかに適合するものであること。
イ 次に掲げる基準に適合するものであること。
(1) 第三章第八節の規定に適合すること。
(2) 増築又は改築に係る部分が第三章第一節から第七節の二まで及び第百二十九条の二の三の規定並びに法第四十条の規定に基づく条例の構造耐力に関する制限を定めた規定に適合すること。
(3) 増築又は改築に係る部分以外の部分が耐久性等関係規定に適合し、かつ、自重、積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃による当該建築物の倒壊及び崩落、屋根ふき材、特定天井、外装材及び屋外に面する帳壁の脱落並びにエレベーターの籠の落下及びエスカレーターの脱落のおそれがないものとして国土交通大臣が定める基準に適合すること。
ロ 次に掲げる基準に適合するものであること。
(1) 増築又は改築に係る部分がそれ以外の部分とエキスパンションジョイントその他の相互に応力を伝えない構造方法のみで接すること。
(2) 増築又は改築に係る部分が第三章及び第百二十九条の二の三の規定並びに法第四十条の規定に基づく条例の構造耐力に関する制限を定めた規定に適合すること。
(3) 増築又は改築に係る部分以外の部分が耐久性等関係規定に適合し、かつ、自重、積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃による当該建築物の倒壊及び崩落、屋根ふき材、特定天井、外装材及び屋外に面する帳壁の脱落並びにエレベーターの籠の落下及びエスカレーターの脱落のおそれがないものとして国土交通大臣が定める基準に適合すること。
二 増築又は改築に係る部分の床面積の合計が基準時における延べ面積の二十分の一(五十平方メートルを超える場合にあつては、五十平方メートル)を超え、二分の一を超えないこと 増築又は改築後の建築物の構造方法が次のいずれかに適合するものであること。
イ 耐久性等関係規定に適合し、かつ、自重、積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃による当該建築物の倒壊及び崩落、屋根ふき材、特定天井、外装材及び屋外に面する帳壁の脱落並びにエレベーターの籠の落下及びエスカレーターの脱落のおそれがないものとして国土交通大臣が定める基準に適合するものであること。
ロ 第三章第一節から第七節の二まで(第三十六条及び第三十八条第二項から第四項までを除く。)の規定に適合し、かつ、その基礎の補強について国土交通大臣が定める基準に適合するものであること(法第二十条第一項第四号に掲げる建築物である場合に限る。)。
ハ 前号に定める基準に適合するものであること。
三 増築又は改築に係る部分の床面積の合計が基準時における延べ面積の二十分の一(五十平方メートルを超える場合にあつては、五十平方メートル)を超えないこと 増築又は改築後の建築物の構造方法が次のいずれかに適合するものであること。
イ 次に掲げる基準に適合するものであること。
(1) 増築又は改築に係る部分が第三章及び第百二十九条の二の三の規定並びに法第四十条の規定に基づく条例の構造耐力に関する制限を定めた規定に適合すること。
(2) 増築又は改築に係る部分以外の部分の構造耐力上の危険性が増大しないこと。
ロ 前二号に定める基準のいずれかに適合するものであること。

では、当てはめてみましょう。
第六面に記載されているのが、

第一号イ
1/2以上の増築であり、既存部分と一体として構造計算がなされているため、既存部分も含めて新耐震基準に適合しています。
第一号ロ
1/2以上の増築で、エキスパンションジョイントの可能性がある増築であるというところまで判別できます。
この場合、既存部分は耐震診断による可能性があるので、新耐震基準に適合していない可能性があります。
第二号イ
1/2以下で1/20以上または50㎡以上の増築であることがわかります。
エキスパンションジョイントの使用の有無はわかりません。
この場合、既存部分は耐震診断による可能性があるので、新耐震基準に適合していない可能性があります。
第一号ロ
増改築部分の床面積が既存部分の延べ面積の1/20以下かつ50㎡以下の増築です。
既存部分を新耐震基準に適合させる必要がありませんので、既存部分は旧耐震基準の可能性が高いです。

エキスパンションジョイントとは

エキスパンションジョイントの使用により、既存部分と増築部分が構造上分離されることから、エキスパンションジョイントを使用した増築の場合は、耐震性が弱い可能性が高いです。
エキスパンションジョイントを簡単に言うと、電車の結合部のようなものです。
2つの建物をつなぐジョイントです。

見本はググってください。
たまに見かけるので、イメージが湧くと思います。

エキスパンションジョイントによる増築は、既存部分の規制が緩くなるメリットがあります。

エキスパンションジョイントの使用の有無の見分け方

・増築の場所
エキスパンションジョイントはジョイントですので、横に増築する場合にしか使用できません。
よって、5階建てを6階建てにするような、上に積むような増築の場合には使用できないことから、エキスパンションジョイントの使用は無いと判断できます。

・現地で確認
エキスパンションジョイントをググると、色んなつなぎ方の例が見れます。
現地で増築部分と既存部分の接続部を確認し、実際に使用されているかを確認します。
ただし、化粧板などで隠されている場合もあります。

・平面図で確認
建築確認申請書には平面図が付属していますが、その平面図を確認するとエキスパンションジョイントの有無がわかる場合があります。
ただし、エキスパンションジョイントを使用しているからといって、必ず書かているとは限りません。

・建築士に確認してもらう
最終手段として、建築士に確認してもらう方法があります。
建築確認申請書類の全てを渡せば、ほぼ間違いなく、エキスパンションジョイントの有無を確認できるかと思います。

新耐震基準に準拠しているのかを見分ける最終的な方法

これまで述べてきましたとおり、基本的には新耐震基準に適合している必要があります。
ただし、建築士のコメントにより新耐震基準への適合が認められている場合があるなど、不確実性を有しています。

よって、正確に判断するには、増築時の建築確認申請書類一式を用意して、建築士にチェックしてもらう必要があります。

その結果、新耐震基準への適合の有無が曖昧な場合は、最終手段として、耐震診断を行う必要があります。

そこまでして新耐震基準への適合を確認することは無いかと思いますけどね。

  • B!