REIT

NAV倍率と投資判断

NAV倍率(なぶばいりつ)とは、リートが保有している「物件の総額」と「投資口価格の総額」との比較です。
つまり、1倍を割っていれば、割安ですし、1倍以上だと割高です。

なお、NAV(Net Asset Value)とは、鑑定評価額から負債等を引いた残額であり、この記事では「物件の総額」と呼ぶことにします。

NAV倍率での投資判断

基本的にはNAV倍率が1倍を割っていると割安なので「買い」という判断になります。
ただし、「物件の総額」が毀損していない場合に限って、という条件が付きます。

2020年の新型コロナウイルス感染症による大暴落時には、すべての銘柄がNAV倍率1倍を割るタイミングがありました。
その後、物流系とレジデンス(住宅)系は着実に回復し、オフィス系は緩やかに、リテール(店舗)系はもたもたと、ホテル系のうちビジネスホテルを主とするREITは地を這っています。
NAV倍率的には、すべてが買いだったはずなのに大きく差が付きました。

これは、「物件の総額」が鑑定評価額であるため、将来を反映できていないためです。
本来であれば、ホテルやリテール系の物件は大打撃を受け、「物件の総額」も大幅に減少していたはずであるところ、半年毎にしか鑑定評価が行われないため、「物件の総額」は維持されました。
ところが、換金の必要性に駆られた株主が一斉に売りに走ったため、「投資口価格の総額」の下落が生じたため、NAV倍率が1倍を割ったのです。

つまり、同じようにNAV倍率が1倍を割っている状態であっても、
物流系 「物件の総額(毀損していない)」
ホテル系「物件の総額(毀損している)」
の違いがあり、物件総額が毀損していないREITは買いだったと言えます。
逆に、物件総額が毀損しているREITは、将来の鑑定評価額が下落するため、物件総額が下がることになり、その結果、NAV倍率が1倍に近づき、投資口価格の上昇なく割安感が解消される可能性があります。

結 論

鑑定評価額は過去の指標であるため、「物件の総額」が今現在いくらなのかを予想し、それでもNAV倍率が1倍を割っているのであれば、買いと判断できます。
逆に、将来、物件の値上がりが期待できないのに、NAV倍率が高い物件は下落する可能性があります。

これだけで判断できるものではありませんが、考慮したい指標ですので、売買判断の際には確認することをおすすめします。

参考までに、いくつか分析します。

記事投稿時現在の物流系REITの「三菱地所物流リート投資法人」のNAV倍率は1.5倍です。
将来、物流倉庫の鑑定評価額が1.5倍以上になると予想するなら買いとなりますが、REITの鑑定評価額はそもそも高額なので、そこから更に1.5倍はなかなか難しいかと思います。

リテール系REITの「日本リテールファンド投資法人」のNAV倍率は0.59倍です。
将来、商業施設の鑑定評価額が4割引になるレベルです。
営業自粛による賃料の減額リスク、今後の店舗のあり方(前のように人を詰め込めないことによる売上減少に伴う、賃料負担能力の低減)等により、鑑定評価額の下落が想定できます。
しかし、普通のREITは競争力がある物件を保有するため、大きく賃料が下落することは想定しにくく、鑑定評価額が4割も下がることはありえないと思います。

次にオフィス系REITですが、全般的にNAV倍率は0.8~1倍付近で推移しています。
現在、鑑定評価時において、新型コロナウイルスによるオフィスの影響はないものと判断しています。
ただし、テレワークの推進によるオフィス不要論は囁かれており、第二波、第三波が来るようであれば、オフィス不要論は加速するかと思います。
そうなった場合、空室率の上昇、賃料の下落は想定でき、1割、2割の鑑定評価額の下落も有り得ない話ではありません。
もっとも、その場合でも都心部のハイグレードなオフィスの大幅な賃料減少は想定しづらいため、いい物件を持っていて、NAV倍率が低いオフィスREITなら安全とも言えます。

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